雲ノ平  

                                                     平成17年8月11日〜16日



                 



 8月11日 11時00分自宅出発〜14:00郡上八幡〜15:00高山〜18:00折立
郡上八幡は,祭りで市街には提灯が飾られて観光客が多い。せせらぎ街道から高山へ,道に迷って折立に着いたのは18時となってしまう。雨も激しくなるが,登山客は多く駐車場は殆んど開きスペースが無い。寂しい晩食を終えて車両の鉄板を叩く雨音を聞きながら睡眠する。



 8月12日 7:30入山〜9:00ピーク〜10:30太郎兵衛平〜11:20テント場〜13:20薬師岳〜14:30テント場
時おり雨が降っている。せっかっくの夏休みなのに入山を躊躇していたが,バスが到着すると満杯の登山客が次々と入山して行く。中高年の彼らに励まされるように私も入山。三角点のピークまでくると,前方に薬師岳らしい山隗が浮かぶが,遠くて高い。ここから太郎平小屋までまだ3時間以上かかると思っていたが,登山道が整備されていたせいか早く到着できた。
小屋で気象状況を聞くと,雨が降っているがだんだん良くなると言っている。薬師峠の鞍部のテント場でテントの設営,昼食らしいものを取って,薬師岳へ向かう。途中で撤退中のご夫婦と遭遇,登頂に自信なさそうなご主人をを翻意させて,一緒に登るが薬師岳山荘でとうとうギブアップ,奥さんのほうは少し登りたそうだったが,ご主人がガス欠状態で結局ご夫婦は登頂を諦めて,単独行となった。
もうすぐで山頂なのに,九十九折れのダケ道は雨と強風,ガスの中。晴天なら雲ノ平の向こうに水晶岳,鷲羽岳や黒部五郎の雄姿が見えると思うが,あいにく立ち止まると寒いだけ。それでもどこぞの大学ワンゲルのパーティ2組がスゴ乗越から到着,奇声を上げていたり,疲労困憊で固まっている者もある。

写真だけとってテント場へ戻ると,雨のためにマイテント下が流水でエライことになっていた。こんなときに限ってテントマットを忘れてきている。フリースジャケットを忘れてきている。テント内は敷マットの外は水が滲んでいる。今夜は幅50センチメートルのマット上を落ちることなく寝よう。事前策としてテント周辺の,流水路変更工事をして就寝するが,雨音が激しく隣接テントでも「シュラフまで水が来た。」とか,「明日はどうする?」とか大変な状態だ。


 8月13日 6:00出発〜6:20太郎兵衛平〜10:30黒部五郎肩〜12:20黒部五郎小舎〜14:20三俣山荘
小雨の中を出発,太郎兵衛平小屋のトイレはチップ制で大変きれいだ。しばらくは木道を行き縦走の醍醐味が味わえるコースなのだろうがまったく視界がない。学生の大きなザックを見て歩いているだけで余計に疲れてくる。しかし北ノ俣岳への稜線にはハクサンイチゲやチングルマが咲き誇り,ハイマツとのコンストラストがとてもいい。
中俣乗越から黒五への登りは厳しく,長い。視界も悪い。まったく愉しくない。黒五岳もガスの中だが,少し天候が回復したようで,黒五のカールを行くと雄大な景色の中にコバイケソウの群生,雷鳥親子が迎えてくれる。しかし登山道はかなり荒れており,尾根道と比べて雨量が多く植物の繁栄するカール地形の方が登山靴のインパクトに弱いのかもしれない。やはり木道が最も地形に優しいのだろう。
時折り日光も射し込んで来るので,シュラフやテントをザックから出して乾燥させながら黒五小舎に到着,ここは広々とした大地に位置しており,しばらく滞在したい場所だ。
しかし,簡単な行動食後三俣蓮華の西尾根急登から三俣山荘キャンプ場を目指す。三俣蓮華岳は,誤って巻き道に入ってしまった。ちょうど天候も回復してきたのと,三国を分けるいわれの三俣蓮華岳の眺望が見られなかったのは残念だが,やがて三俣山荘到着。まず昨日の雨で濡れた衣類等を乾かせながらテント設営,長袖は薄いシャツとレインコートしかなく陽光が頼りだ。テント場の北に鷲羽岳が堂々とした姿を現す。三俣山荘前からは時折り槍ヶ岳も顔を覗かせるが,こんなときにはカメラがない。夜半に雨音で目を覚ます。明日も雨かよ。


 8月14日 6:30出発〜7:40鷲羽岳〜8:30ワリモ北分岐〜9:10水晶小屋〜9:50水晶岳〜11:00岩谷乗越
  〜12:20雲ノ平キャンプ場
ガスっているものの雨は降っていない。三俣山荘から鷲羽の急登に取り付く。雲の隙間から太陽が覗くと,雲ノ平祖父岳付近にブロッケン現象が現れた。こんな経験はそんなに無いだろう。天候に恵まれなくても神は時々登山者に飴もしゃぶらせる。逆方向の東側には,尾根道岩場に根付いた高山植物達は露を纏って可憐に日の出を寿ぐ。鷲羽岳山頂からは三俣山荘やテント場が時折り見え,同様に雲ノ平が見え隠れするものの,槍や黒五,薬師の頂上部は雲の中だ。
状況で高天原の露天風呂経由で雲ノ平へ入る案もあったがこの天気で断念。(正解だった)ワリモ岳を経てワリモ岳北分岐でザックをデポ,サブザックで水晶岳を目指す。雲が除かれると,左に雲ノ平,右に大天井岳,その奥に常念岳が,前方に水晶岳,裏銀座コースの野口五郎岳も迫ってくる。小さな水晶小屋から真砂岳への裏銀座コースの浸食された岩塊は北アルプスの代表ルートで,北アルプス縦走の魅力を満してくれるだろう。
喘ぎながら水晶岳へ登頂すると,岩苔渓谷を隔てて雲ノ平の高原がかなりの高度にパノラマに広がる。標高は2500メートル前後だろうか。雲ノ平山荘が幽玄に佇む。昨年は笠カ岳からもこの山小屋が見えたことで,今の私がここにいるんだなあ。北アルプスは素晴らしい!
ワリモ分岐まで帰り,岩苔鞍部から祖父岳へ登り返す。祖父から槍ヶ岳が一瞬顔を出す。天候さえよければこの頂は北アルプスの名峰に囲まれた最高のロケーションのはずだが・・・。しかし西側からの雲ノ平の眺めは素晴らしく各庭園へ誘う白い木道が俯瞰できて,時間に余裕があれば命の洗濯ができるだろうに,浮世の身では仕方が無いか。
 テント場へ着いたとたんにまた雨が・・・このテント場も水場の周辺にあって,雨天時の天幕張広場は水溜り状態となるようだ。なんとか小石の天幕場(涸沢キャンプ場のような)を見つけてテントを張ったが,今夜は背中が痛そうな。でも水難は回避できた。この夜の雨は今迄で最強だった。
雲ノ平山荘までビールを買いに行ったが,祖父岳から眺めたときはすぐそこに見えたのに歩くと遠い!実際の距離と見かけ上の距離は反比例するのは真実だった。


 8月15日 6:20出発〜6:50アルプス庭園〜9:30薬師沢小屋〜11:10太郎兵衛平〜13:45折立
今日は朝から雨だ。隣の学生は「プールや。」といって撤収している。背中が痛くても下が小石でよかった。臥薪嘗胆だ。ちょっと違うか。昨日の残りのご飯とフリーズドライ食品のビビムパプぶっかけでリッチな朝食を取る。コンデンスミルクたっぷりのミルクティがまた美味い。歩く前にエネルギーが充填していくようだ。
さあ出発だ。山荘北側を巻いて通り,祖母岳のアルプス庭園に登る。池溏や雫を溜めた青葉,チングルマなどを敷き詰めた海原の向こうに雲ノ平山荘が浮かぶ。天気がよければ・・・無いものねだりはもうよそう。
今日はお盆で終戦記念日,ご先祖の供養や靖国神社の参拝とこの国は神聖な一日となるだろう。雨はますます激しくなり奥日本庭園,アラスカ庭園と霧のうちに通り過ぎ,急降して薬師沢へと急ぐ。薬師沢小屋へは黒部川に降りて吊橋に登り返して行くが,増水で膝まで入り渡渉するか,小屋が応急的に作ったスリングを伝って右岸傾斜に取り付くルートがあった。何とかスリングから靴を濡らさずに小屋に到着できたが,その後沢歩きのような登山道を行くことで結局靴内はズブ濡れ状態となるのだが。
太郎平小屋のトイレで最後の行動食を取る。少々匂うが屋根があるのが有り難い。親子連れの母親が雨にぼやいているが,山の天気は仕方ない。旦那は奥さんのご機嫌を取り,息子の方が落ち着いて両親を観察している。山は最高の教育現場だ。各人平等に己と向き合う時間を与える。
いよいよ最後の降りとなったが,踝上部が靴との接触で鈍痛を覚える。特に降りで足先に力を入れれば痛みが増すようだ。4日間の雨中歩行で筋を痛めたのか,トレーニング不足かな。最後は内股歩きでダマシダマシで下山,踝上部が一部内出血していた。
折立から南へ471号線へ出て,栃尾温泉の荒神の湯へ直行志納金200円で4日ぶりの風呂だ。体は新品となったが,やはり長袖は入れ忘れて来たようだがもう山の上ではない。少々寒いだけでいざとなったらゴミ袋もバスタオルもある,大丈夫だ。せせらぎ街道の道の駅で夕食,今夜は郡上踊りのためか観光バスも入って来る。
高山のスーパーで購入した久しぶりのご馳走?と,ビールに下界に降りた幸せと,脳裏に残る雲上の景色,心地よい疲労が綯い交ぜとなり酔いゆく肉体と非日常の街並みが私を異次元へと誘う。これが単独行の醍醐味だろう。


 8月16日 3:00出発〜7:00帰宅

オチマイ。